粉飾決算 公認会計士の罪と罰〈上場企業不正60件。不正会計の増加で「監視する側」の責任が問われている〉/松浦新――文藝春秋特選記事【全文公開】
「文藝春秋」7月号の特選記事を公開します。文/松浦新(朝日新聞経済部記者) ◆ ◆ ◆ 投資家をだまして資金を集める粉飾決算など、上場企業の不適切な会計処理が、コロナ禍のなかでも高水準で続いている。民間調査会社の東京商工リサーチによると、2020年は58社60件あり、過去最多だった19年(70社73件)に次ぐ高水準だった。 今年に入ってからも、東証一部の精密機器メーカー、東京精密で子会社社長による架空発注や売掛金の回収偽装、中堅ゼネコンの大豊建設による水増し発注などの会計不祥事が相次いでおり、依然として減る兆しが見えていない。 粉飾が発覚すると、弁護士や公認会計士らによる「第三者調査委員会」が作られることがある。その調査報告書では粉飾の原因がつぶさに分析されるが、経理上の分析だけでなく、社内アンケートや電子メールの分析にもとづく生々しい人間模様が描かれることもある。そこで、上場企業の不正会計の報告書から、近年の粉飾の実態を見てみたい。 まずは、ワンマン経営者の独善的な要請によるケースだ。 住宅建築会社「ナイス」(旧すてきナイスグループ、本社・横浜市)は2015年の決算を粉飾したとして、19年に平田恒一郎前会長らが逮捕された。今年3月、横浜地裁は平田氏に懲役2年6月(執行猶予4年)の有罪判決を下した。本件の報告書(19年7月)は、平田氏について次のように記した。 同氏は創業家の2代目として1988年に社長に就き、グループ企業の部長以上の人事権を掌握し、独裁体制を敷いていた。例えば、新築マンションが売れ残ると、完売になるまで会議のたびに住宅部門の役員を立たせて謝らせる。「清く、正しく、まじめなナイス」という行動規範の下、自ら定めた「ワイシャツは白」「役員は喫煙禁止」「ゴルフ禁止」などの決まりに違反した役員の降格を命じるといった具合だ。 判決によると、同社は15年3月期の連結決算に架空売り上げを計上。実際は約1800万円の経常損失だったのに、4億9600万円の経常利益があったなどとする虚偽の有価証券報告書を15年6月に提出し、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)と認定された。 調査報告書によると、ナイスが実質的に自由にコントロールできるペーパーカンパニー「ザナック」へのマンション売却などとして、架空取引が実行された。 3月期決算が近づいた15年1月、ナイスの連結決算数値は、一度下方修正をした予想値にも達しないことが明らかになっていた。前会長らは、「ときとして強く利益改善を求めた」(報告書)。その中で、経理担当取締役は住宅事業本部長と副本部長に「決算対策」としてザナックに首都圏のマンションを売却することを求めた。 これに粉飾決算を心配する副本部長が「嫌です」と反対したところ、経理担当は「決定事項です」と応じた。これを聞いた副本部長は「ザナックへの売却は平田恒一郎氏の指示であろうと考えたため、それ以上反対をすることなく、それに従うこととした」(同)という。 バリバリの営業マンが循環取引 IT系の公共事業発注にからむ不正が多いのも近年の特徴だ。中でも、実在しない機器やソフトを販売したことにして各社が実体のない売上高や利益を計上する「循環取引」が目立つ。見つかる時は「芋づる式」だ。昨年3月までに、東証一部のネットワンシステムズと、東芝や富士電機の連結子会社など少なくとも7社がからんだ循環取引が表面化した。 各社の第三者委員会などによると、富士電機は「巻き込まれた」、東芝も「主体的な関与や共謀しての関与は認められなかった」と、「主犯」を否定した。その中で約300億円の架空売り上げを計上し、詳しい経緯を公表したネットワンシステムズの報告書は、中心人物Aを次のように描く。 Aは08年に中途採用されて以来、一貫して中央省庁案件を担当するバリバリの営業マンで、成績優秀者のための報奨旅行の常連だった。上司が意見すると、強くかつ能弁に反論するので、上司も率直に意見を言いにくい存在だったという。一方、部下を引き連れて飲み会を開き、費用を全て負担するなど、面倒見の良い「親分肌」でもあった。 だが、Aは循環取引に手を染めていた。架空案件が監査対象になると、部下に必要書類を集めさせ、架空取引の相手先企業に「納品を確認した」とするメールの返信を依頼する偽装工作もしたという。こうした他社も巻き込んだ偽装で、4年以上も発覚を逃れてきた。一方、疑念を抱く部下には「お前疑っているのか」と叱責し、それ以上の質問を封じ込めることもあったという。 ネットワンでは13年にも、7年にわたる循環取引が表面化している。循環取引は1社ではできないので、業界の悪癖といえる。だが、各社の報告書は、この業界体質には触れなかった。
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